先生の青



家の玄関に入る


だだっ広いホールの端
リビングへ伸びる廊下を
横目で見てから
階段へ向かった



この家って
私がいても いなくも
誰も気付かないし
気にしないよね



階段を上りきり
部屋の方へ続く
廊下に身体を向けて


息が止まる



2階の奥の部屋から
英雄さんが出てきた



 ドクドクドクドク………


鼓動が早まり
胸が痛い



早く、早く 部屋に逃げよう


こちらに近づいてくる
英雄さんと


目を合わせないように
うつむいて早足になる



自分の部屋のドアノブに
手をかけた瞬間




―――――――――ダンッッ…



ものすごい音と振動に
彼の方を向くと



私をにらみ壁を蹴ってた



情けなく足がすくみ
ドアノブを掴んだ
手が震えだした




「……お兄さまに
『ただいま』の
挨拶もなしか?市花」



怖くて うまく口が開かない


だけど かろうじて


「た、ただいま……」


か細い声が出た



英雄さんは
ゆっくり近づき
私の背後に立つ



ドアノブを掴んだまま
固まる私の耳に唇を寄せ



「あのセンセー
お前の男か?

辛気臭いお前が
二股かよ

スゲーなぁ、市花」




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