先生の青




美術室を出ると
早足で廊下を進んだ。



先生の穏やかな表情からは
寂しさとか未練とか
何も感じられなかった



優しい表情はどこか すっきりしてるようにも見えた



半ば走ってるみたいに
歩調は速くなっていく



押し寄せる切なさは
この胸の痛みは
私だけが感じてるのかな?



切なさは
胸の痛みは
いつになったら消えるの?







自分のクラスの手前で
男子数人の笑い声が聞こえた



それは隣の教室
2-3から聞こえる



男子の笑い声なんて
いつもなら
気にならないけど




「アイツは?アイツ
4組の一ノ瀬 市花」



自分の名前が聞こえてきたから
立ち止まる



………なに?私の話?



「……あー、市花ねぇ」


ダルそうに答えた声の主は
笹森くんだ



「修学旅行までには落とすよ?
ホントーは夏休み用に
欲しかったけどさ

修学旅行に女いないんじゃ
つまんねーし」



でも、なぁ……って
笹森くんは続ける



「市花って意外と
面倒くさいかも」




2-3を通りすぎ
自分の教室に入り
机から本を取り出す



………面倒くさいって
私が笹森くんに何したよ?



つーか、夏休み用とか
修学旅行までって
私、物じゃないし




………面倒くさいかぁ



そう思えば
先生と私って
面倒くさい事だらけだったな



その面倒くさい事が
想いを深くして行った



バカだなぁ、笹森は


恋愛は思い出を彩る
材料にはならない



恋は痛くて苦しい物なのに





< 228 / 389 >

この作品をシェア

pagetop