先生の青



食事を終え、
お弁当箱を袋にしまうと



「そうだ。市花」


絆が笑顔で聞いてきた。


「新しいお家はどう?
もう1ヶ月になるよね?
お母さんが再婚してから」



「……あー、うん。そだね…」



私、木下 市花(キノシタ イチカ)は
1ヶ月前の4月
母親の再婚により
一ノ瀬 市花(イチノセイチカ)になった



絆は私が幸せだと1mmも疑わない笑顔で続ける



「新しいお父さん、
大学病院の教授先生
なんでしょう?素敵だね。

お家だってお屋敷みたいって…」



「前に住んでた崩壊寸前の
市営住宅からしたら
絆のお家だって
充分お屋敷だけどね」



崩壊寸前って 絆が笑って



「お兄さんもできたんだよね?
医学生って言ってたっけ?
今度、紹介してね」


――――――お兄さん


その言葉に心臓が大きく跳ねる



「…………うん。今度ね」



無邪気な声で絆は言った


「一人っ子からしたら
お兄さんってすごい憧れる
市花、良かったね」



 血の繋がらない兄との
 出逢いを呪ってる私を
 絆は知らない―――――





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