先生の青





スケッチブックをしまって
カナさんは言った




「泉に………会って
声かけてくれる?
あなたの声なら
泉きっと飛び起きるから……」




カナさんの後ろに続き
集中治療室に向かう時
通りすぎた椅子に



60代くらいのおじさんと
少し垂れた目元が先生に似てる50代くらいのおばさんが
憔悴した様子で座ってた






ベッドの上
いろんな機械に繋がれた先生は
頬とか所々に傷があって




「………嘘だ………」



呟いた私を
ベッドの真横にいた
カナさんが振り返った




「嘘だ……嘘だ嘘だ
こんなの嘘だっっ!」



叫んだとたんに
決壊したように
涙が流れ出した





「市花さん、落ち着いて」



差し伸べられた
カナさんの手を
思い切り振り払う




「嘘だっっ!
こんな……先生じゃない
先生じゃない
先生じゃない」




狂ったように
叫び出した私のところに
看護師さんが駆けつけてくる




「落ち着いてね
一回、外に出ようね」




なだめるような優しい口調でも
私を取り押さえる腕の力は
ものすごい強かった




看護師さんやカナさんに
押さえつけられながらも





「嘘だっっ、
絶対に嘘だっっ
先生じゃない
先生じゃない―――――――」





彼女たちの腕の中
泣き叫んでた




嘘だ、違う、
あれは先生じゃない


先生は今どこか別の場所で
そうだ、
あの綺麗な青い絵を描いてる







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