先生の青
重たい玄関の扉を開け
大理石の床に足を一歩入れる
「ただいま」を言う習慣が
私にはない。
母子家庭で小さい時から
鍵っ子だったし
この広い広い家では
玄関で「ただいま」と言っても
誰の耳にも届かない。
靴を脱ぎ、
スリッパに履き代える
家でスリッパを履くのも
この家に来てからだ。
前の家は狭くてスリッパ履いて歩く場所はなかった。
だけど ここでは履かないと
長い廊下や階段 冷たい床に
足が冷える。
これから初めて迎える夏では
この冷たい床は快適なのかな?
リビングの扉を開け
顔だけ のぞかせ
ソファーに座りお茶を飲む
お母さんの背中に
「…………ただいま…」
こちらに顔を向け
「お帰りなさい」
お母さんは
少し疲れた顔で笑った