先生の青




……先生だけが私の全てだ



「イチ」



先生はベッドから降り
床に座る私と向き合った



そっと私の頬を両手で包み



「イチ。

今回のことでお前に非はない

だけど

もう二度とこんな目に
会って欲しくない」


先生は私の目を見据え
真っ直ぐな視線から
彼の深い想いが伝わる



「哀しいことも
寂しいことも
生きてる限りたくさんある

いい人もいれば
悪い人もいる

寂しい心に付け入ろうとする男だっているだろう


お前はもっと自分を
大切にしなきゃいけないよ


大丈夫。
ちゃんと幸せになれるから


そんな捨て猫みたいな
目をしないで


泣きたい時は
オレがそばにいるよ


だから、今は辛くても
未来に絶望だけはするな」



温かい手が頬を包み


死んだ心を引き上げる


ひとりぼっちの私を


しっかり捕まえる



「……先生、私、寂しかった」


何年も何年も

子供の頃から

飲み込んできた言葉を

彼は受けとめてくれる



「ずっと、寂しかった」


言葉以上に涙が溢れて


頬を伝うと


親指で そっと拭ってくれる


「ずっと…ずっと……
私、ひとりぼっちだって……
思って……………」


涙が止まらなくて
のどを詰まらせると


「うん。大丈夫だよ
イチが寂しい時は
オレがいるから」


私を抱き寄せて

優しい腕の中に入り

広い胸に濡れた頬をつけると


魔法にかけられたみたいに


私は子供になって


先生に全てを委ねてしまう




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