アンチバリアフリー

触れる

カチッ カチカチッ

｢おかしいなぁ、つかねぇぞこれ｣

｢店員さん呼んだほうがいいんじゃないの？｣

はしゃぎムードに突入しかけていた場の雰囲気がガスコンロ一台によって一転してさめざめとしたものになってしまった。
あちらこちらから不満げな声が聞こえてくる。
空気の読めないやつらが冷え切った空気をさらに冷たいものへとかえていく。
何度点火しようとしても一向に点く気配を見せないあのコンロが、少し前に彼が席を立つのを視界の隅でしっかりととらえていた私の心を表しているようだった。