アンチバリアフリー
ひんやりとした壁の感触が徐々に自分の体温に近づいていく。
頭の隅にわずかに残っていた、アルコールを”気持ちいい”と感じる部分に浸っていると、またあのどうしようもない吐き気が襲ってきて甘美な夢想に耽っていたおれを現実へと引き戻した。
遠くのほうから、どこかで聞いたことのあるような一気コールがたえることなく響いてくる。隣では、同じ大学で二年の遠藤が、また盛り上がりはじめている自分達の席の方をちらちらと見ては戻るタイミングをうかがっている。

「おーい、壮太、大丈夫か?酒弱いくせに調子に乗って飲み過ぎるからだよ。吐けば楽になるぞ」

戻りたきゃ戻ればいいのに。

「もう一人で大丈夫だよな?おれ先に戻ってるからな」

いやみの一つでも返してやろうかと思ったが、言葉がでてくる前に遠藤は自分達の席に戻っていった。一人取り残されてしまったおれは頭の中のまだ正常な部分を探してはそれを一つずつ”毒”で侵していった。
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