アンチバリアフリー
「大丈夫大丈夫、まったく大丈夫だよ」
心配させないように場を取り繕うような笑顔で応じ、両手を前にだして”助けはいらないから”というジェスチャーをした。
しかし今まで曲がった状態で身体を支えていた両膝が、立ち上がろうとした瞬間におれのコントロールをはなれ、万有引力に抵抗するという仕事を完全に放棄した。
バランスを崩し倒れそうになったおれはとっさに恵の手を掴んでいた。
恵の手はテニスをしているとはとうてい思えないほど細く、同時にとても弱々しいものに思えた。
「きゃっ!」
女の子一人で倒れそうになったおれの体重を支えることができるはずもなく、恵がおれの上にもたれかかる形で床に倒れ込んだ。
「ごめん、大丈夫か?」
「もー、ビックリするじゃん」
文句を言いながらも、嫌な顔一つせず恵は恥ずかしそうに笑いながらコクリと頷いた。
頷いたひょうしに互いの唇があたりそうになってしまうほど二人の距離は近づいていて、恵が呼吸するたびに、温かくて、何かカシス系のカクテルでも飲んだのだろうか、柑橘系のさわやかな香りを含んだ吐息が首筋をかすめていった。
吸い込まれそうな目だった。
一瞬、恵が早紀に見えた。
後になって思えばこれが本当にそう感じたのか、早紀に対する言い訳のような思いだったのかはわからない。
ただそのときは確かにそう感じた。
10秒ほど見つめあった後、自然と二つの唇は重なり合っていた。
心配させないように場を取り繕うような笑顔で応じ、両手を前にだして”助けはいらないから”というジェスチャーをした。
しかし今まで曲がった状態で身体を支えていた両膝が、立ち上がろうとした瞬間におれのコントロールをはなれ、万有引力に抵抗するという仕事を完全に放棄した。
バランスを崩し倒れそうになったおれはとっさに恵の手を掴んでいた。
恵の手はテニスをしているとはとうてい思えないほど細く、同時にとても弱々しいものに思えた。
「きゃっ!」
女の子一人で倒れそうになったおれの体重を支えることができるはずもなく、恵がおれの上にもたれかかる形で床に倒れ込んだ。
「ごめん、大丈夫か?」
「もー、ビックリするじゃん」
文句を言いながらも、嫌な顔一つせず恵は恥ずかしそうに笑いながらコクリと頷いた。
頷いたひょうしに互いの唇があたりそうになってしまうほど二人の距離は近づいていて、恵が呼吸するたびに、温かくて、何かカシス系のカクテルでも飲んだのだろうか、柑橘系のさわやかな香りを含んだ吐息が首筋をかすめていった。
吸い込まれそうな目だった。
一瞬、恵が早紀に見えた。
後になって思えばこれが本当にそう感じたのか、早紀に対する言い訳のような思いだったのかはわからない。
ただそのときは確かにそう感じた。
10秒ほど見つめあった後、自然と二つの唇は重なり合っていた。