LUTIM
 自分でも今口にした言葉に驚きつつ、しかしカリムは納得してもいた。心の内でくゆっていた感情にやっと説明がついた気がしたのだ。

「カリムよ…自分が何を言っているか分かっているのか?」
「もちろん、分かっています」
「それならばお改め下さい!ワーキャットの赤子をお育てになるなど…!人と同じにいくとは限らぬのですよ!」

 父王とバーディニアの視線と言葉をものともせずに毅然と立つカリムは、腕に抱いた赤ん坊の頭をそっと撫でながらくるみ布を頭から外してやる。
 ふわりとした栗の髪の上にぴょこんと立ったトラ柄の耳が姿を現し、それをそっと撫でてやれば嬉しそうに笑う。
 その笑顔は連鎖のように穏やかな笑みをカリムに浮かべさせた。

「この子を拾ったのは私だ。それ故の責任がある。拾うだけ拾って、後は他者に丸投げするなど…私にはできない」
「赤子など、責任感だけで育てきれるものではありません!」
「だとしても!」

 思わず荒げたカリムの声にバーディニアが思わず息を呑み、父王はじっとカリムの様子を伺っている。

「だとしても…この子のこの笑顔を…私は手放したくない。この子は、私が育てる」

 きっぱりと言い切ったカリムにバーディニアも何も言えなくなってしまい口を噤んだ。
 その様子をじっと見つめていた父王が細く長く一度だけ、吐息を吐き出してから再びカリムをその視線の先に捉えた。カリムもそれを見つめ返す。

「…お前はこれまで、たいした我が儘も言わずここまで来た。母を亡くし、兄弟も無い…私とてきちんとお前に構ってこられた訳でもない」
「父上…?」
「そんなお前の初めての我が儘がこの様な形になろうとは……良いだろう。その赤子の事はカリム、お前に一任する」
「父上…!」
「陛下…っ?」

 カリムとバーディニアの驚きの声がハモった。しかし父王はそれを気に留める事なく更に言葉を紡いだ。
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