LUTIM
「なんだろう…?」

 何かの音のような、けれど声にも聞こえるような。
 湧き上がり始めた奇妙な緊張感が気を焦らせる。きょろきょろと辺りを伺っても在るのは一面の雪に埋もれた景色ばかりで、聞こえた何かの元になるようなものは何も見当たりはしなかった。
 もしかしたら、あまりにも静かすぎる雪積もりの世界故に空耳が聞こえたのかと、カリムが思考を改めようとしたその瞬間。

「……ふみゃぁぁー……っ」

 確かに、聞こえた。か細くはあるものの、間違いなく何かの声。
 再びカリムは辺りを見回し今聞こえた声の主を探す。しかし、雪の上には自らの足跡しか残ってはおらず、何かが居る気配など皆無だ。
 どんどんと気が焦り始める中、まだ見ていない場所はと思考を巡らせる。か細い声の大きさから考えれば、距離はさほど離れてはいないはず。
 そこまで考えが至って、カリムはハッとして弾かれるように背後の城門を振り返った。
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