LUTIM
 今し方まで自分が背を預けていた柱からは左側には高い石造りの城壁が伸び、右側には分厚い木造りの城門扉が座してその身を対の扉と共に閉ざしている。
 カリムはとっさにその表面に耳を押し付けた。外気に冷やされた扉は痛い程にその低温を耳に直接与えてきたが、ためらってはいられない。

「聞こえた…!」

 先程聞いたのと同じか細い声が、確かに城門の向こうから。
 そっと息を潜めて扉の向こうを伺ってみても、大きな気配などは感じられず。それはつまり今聞いた声の主しかそこには居ないということを示していて。

「…どうしよう」

 城門を開くには鍵が必要だ。しかしカリムはそれの所持を許されてはいない。
 本来なら城門には兵が常駐しているが、今は戦時でもなく平和を保っている国内事情も併せ考えれば、恐らくはこの例外の雪の為に引き上げられ定時の見回りのみに切り替えられてしまっているのだろう。
 こうなっては人を呼びに行く他はない。そう決断したカリムは城門から耳を離した。

「カリム王子…?そんな所で如何なさいましたか?」

 天の助けとはこの事か。見回りの時間だったのだろう少しばかり寒そうな様子を見せる兵士に、カリムは縋るようにして駆け寄った。

「門を開けて!」
「ええっ!?」
「お願いだ、早く…!」
「し、しかし許可のない開門は…」
「責任は私が取るっ!だから早くっ!」

 渋る兵士に対し珍しくも声を荒げたカリムの形相に気圧され、兵士は小さく頷く。
 慌てて装置に駆けた兵士が所持していた鍵を使うと、重く軋む音をたてて城門が開き始めた。
 それが開ききるのも待てずに、人ひとり分の隙間が空いた所でカリムはそこから滑るように外へと飛び出す。
 落ち着きもなく巡らせた視界の隅に、小さな小さな籠が映った。





 
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