かさぶたと絆創膏
*問わず語りの夜*
side雪
とりあえず残る涙はマンションに着くまでにぬぐい取ったけど、赤くなったまぶたと鼻の先は治まらなかった。
……どうせお兄ちゃんは鈍いから気付かないだろう。
そう高をくくってインターフォンのボタンを押した。
……しかし。
「…………出ない」
待てど暮らせど玄関が開く気配は無い。
さっき行きがけに送ったメールに返信も無い。
……まさか寝てる?
眠るには早い時間だけど、お兄ちゃんならやりかねない。
フライパンから火があがって前髪まで燃やして、髪型変えちゃったくらいだし。
急いでお兄ちゃんの携帯に発信するけど、耳には規則的な呼び出し音ばかりが聞こえてくるだけ。
「バカ兄……」
仕方なく玄関の前にカバンを下ろし、膝を抱えてしゃがみ込んだ。
……もしかしたら、わたしが来ることを忘れてるのかもしれない。
「はぁ……」
十分あり得る悲しい可能性に、溜め息を付いて膝に顔を埋めた。
……このまま連絡が取れなかったらどうしよう。
星が煌めく夜空と春の夜風にあてられて、気持ちはどんどん鬱いでしまう。
閉じたまぶたの裏に、大好きな彼の笑顔がよぎった。