かさぶたと絆創膏
赤らんだ鼻先を右手で覆い、ゆっくり頷いたわたしを、
「入って」
ぎこちなく笑って玄関の中へと誘ってくれた。
部屋の電気を付け、慣れた手つきでエアコンのスイッチを入れる後ろ姿を、ただ玄関からぼんやり見つめる。
一人暮らしを始めて3カ月の頃には、グチャグチャに散らかった部屋にお兄ちゃん一人で住んでいた。
家中汚いだろうから掃除よろしくね。
出掛けに言われたお母さんからの伝言は、どうやら完全に無効らしい。
お母さんの予想を大きく裏切って、部屋は綺麗に整頓されていたから。
きっと、この人が……。
「あの……」
「青、彼女が熱出したから看病に行ってるんだ」
わたしが聞くより先に、彼はそう言って座るように促してくれる。
遠慮がちに腰を下ろした所で、カバンの中の携帯が震え始めた。
掛けてきたのは案の定お兄ちゃん。
慌てて通話ボタンを押した途端、
「雪(ゆき)!」
五月蝿いくらい大きな声が焦ったようにわたしの名前を呼んで、思わず溜め息をついた。