かさぶたと絆創膏
side秋
腕の中に捕まえた雪は恨めしげに俺を見上げて、すぐさま穏やかに瞳を伏せた。
半年前。
青の結婚式で再会した雪に、風化されていた邪な恋心が頭を掠めた。
あのとき、揺れる自分の心に誓った親友で在りつづける誓いは……破られることなく守り続けている。
ただ、辛かった分まで幸せになれる次の恋に巡り会えなかったのも事実。
どんなに好きだと言われても、肌を重ねても……幸せで満たされる感情とは違った。
……この瞬間までは。
「幸せな恋に巡り会えましたか?」
初めて会った夜より綺麗に成長した雪の口から零れた言葉に、胸の奥で燻ったままだった感情が動き始める。
忘れきれない邪な恋心の影にずっと在ったのは、報われなかった気持ちを救ってくれたあの夜の時間。
「……うん。多分ね」
微笑んで髪を撫でた俺に、雪の驚いた顔がゆっくりとはにかんだ。
「多分……わたしもです」
青を好きにならなければきっと、巡り会えなかった恋。
数年の時間を経てようやく、邪な恋心が報われた。
雪のおかげで……。
*かさぶたと絆創膏 終*