かさぶたと絆創膏
散々呼び掛けを無視した秋さんは、ぐっと恨みがましく見上げるわたしを穏やかな表情で見つめている。
同棲の話を切り出された時もそうだった。
こんな風に穏やかな顔で、
「雪のおかげで雪無しじゃ生きていけない体になった」
カフェで言われて思わず飲みかけのミルクティを盛大に零したっけ。
しかも、それを拭きながら、
「ほら、雪にも俺が必要でしょ?」
耳元で囁かれた言葉にもう、心は全部持っていかれてしまったんだ。
でも、今日は負けない。
ぎゅっと拳を膝の上に作った。
「秋さん、わたしの話を聞いて……」
「イヤだよ。聞かない」
言い終わらない内に唇で塞がれてしまった。
言いたかった言葉を全部秋さんに食べられてしまった気分……。
「ダ、ダメです! ちゃんと聞いて」
「……家事を分担するって話なら却下だよ」
「ぅー……」
息継ぎも惜しい程に唇を重ねた最後に啄むみたくチュッと触れ、秋さんが静かな笑顔を浮かべた。
綺麗な顔に迫力が出て、思わず口を噤んでしまう。
……今日こそは負けないって決めたのに。
丁寧に干された洗濯物を一瞥して、深く溜め息を吐いた。