風の旅

溺れる風

傘を忘れて、大急ぎで家まで駆ける。

雨は土砂降りという言葉が似合いすぎるほど激しくて、俺は早く家に帰るために、公園を通り抜けることにした。

近道近道・・・!

公園の中心、ありがちな噴水の広場を通り抜けて、そこから1本道を30メートルも走れば、マンションが見えてくる。

・・・はずだったのに。

土砂降りの公園には誰もいるはずなんてないのに、噴水のところをよく見ると、人がいる。

俺と同じように傘を忘れた人?と、思ったけど。

なんだか、様子がおかしい。

噴水の縁に座りこんだその人―――ロングスカートだから女性?―――はまったく動かず、うつむいたまま。

かかわらない方がいい感じな人?と思って、目をはなして通り過ぎたが。

『ぱしゃん・・・』

噴水に、何かが落ちた音がした。

とても静かで、土砂降りの雨の音にまぎれてしまうくらいの音。

何の音だか想像もつかなくて、もう走りすぎた噴水を振り返ると、さっきいた人が、・・・いない?

「・・・――――――!」

幽霊でも見ているような気分になって、ぞくっと悪寒が走る。

蒸し暑いはずなのに、鳥肌が立つ。

土砂降りの雨も、肌にまとわりついてくるようで、なんだか気持が悪くなってくる。

・・・俺、そういうの見えないはずなのに。

そんな状態のくせに、恐怖ゆえの好奇心のままに、噴水まで恐る恐る歩を進めてみる。

これで、本当に何か噴水からでてきたら、俺、人生感変わりそうだなー・・・。

なんて案外能天気なことを考えながら。

覗く。と。

そこには、髪の長い、白いワンピースを着た女性が沈んでいた。




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