風の旅
彼女は、なかなか目覚めなかった。

俺が飯を食い終わっても、シャワーを浴びてきても、夜の12時を回っても。

でも、熱はだいぶ下がってきていたから、少し安心した。

彼女を見つけてから随分と時間がたったので、ようやく冷静にものを判断できるようになってきた。

何で、あんなとこに傘もささずに、土砂降りの雨の中、しかも噴水に落ちるほど具合悪かったのに。

それに男だったら手ぶらっていうこともまぁあるけど、女性なのに、バッグも何も持っていなかった。

携帯、財布すらも持たない、身元不明、まさに一文無し。

しかも、靴すらはいてなくて、裸足だった。

俺が話しかけた時、俺の言葉に対して反応が鈍かったのはなんでだろう。

なんだか、不自然な鈍さがあったんだけど。

俺がしゃべっていること自体、ものすごく不思議そうな眼で見ていた。

どうしてだろう。

そんなことを考えながら、少しうとうとしていたらしい。

『カサ・・・』

ベッドが衣ずれした感覚に我に返る。

「あ・・・。」

ベッドに視線をやると、彼女が目を覚まし、上半身を起こしていた。

彼女を見つけた時から張っていた緊張の糸が、やっとほぐれた。

「よかった、目が覚めたんすね。俺のこと覚えてます?公園であなたに話しかけたんすけど、そのままあなたが気を失ったんで・・・。」

ただ、そんな事務的でも大切な内容をしゃべっていても、彼女は表情を動かさない。

そしてやっぱり不思議そうな、でもとても悲しそうな眼で俺を見る。

普通、女性だったら、気がついたら知らない男の部屋にいたとか、すごく怖がるかと思ったんだけど・・・?




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