風の旅
―――これだ。

下心とかじゃなく(いやほんとに)、これには、心を持っていかれないようにすることは無理だろう。

純粋に、好意をぶつけてきてくれる、それが嬉しくて、幸せで、くしゃくしゃの笑顔が可愛くて。

なぜ俺に好意を寄せてくれるのかはわからないけれど、今では俺もそれに慣れて、抱き返すようになっていた。

『これ、すごく可愛い。買うの、恥ずかしくなかった?』

「別に?だって瑞姫はこういう可愛いのの方が好きでしょ?」

瑞姫は、おかしくてたまらないといったような感じで笑いながら、抱き返した俺をさらに抱き返してきた。

『何がおかしいの?』

少しむっとして、いくら小柄だかといっても軽すぎる瑞姫を抱き上げて、膝の上にのせる。

本当に純粋すぎるくらい純粋な瑞姫は、絶叫系のアトラクションにでも乗った気分なのか、楽しそうに聞こえない歓声を放つ。

そしておもしろそうに、真新しそうにノートに走り書く。

『だって、梗丙の見た目で、こんな可愛いの買うなんて・・・それに、可愛いとか、男の子があんまり使わないような言葉も、平気で使うし・・・。なんだか可愛いー!』

「・・・よく言われますよ・・・」

そう、俺の外見は、パッと見怖く思われるらしい。

茶髪の癖っ毛に耳にピアスが両耳それぞれ2つと3つ、毎日何かしら身につけているシルバーアクセサリーはすべてが大ぶりのもので、服装はタイトなジーンズにTシャツ、ジャケットとか。

少しつり気味の眼は、細めていると睨んでいるように見えるらしくて、もともと目も悪かったし、眼鏡をかけてごまかしているほどだ。

確かに、ちょっと怖いかもしれない・・・。

「外見はともかく・・・女所帯で育ったんだ、よくからかわれるけど、しょうがないよ?」

そして俺の家族構成―――父(単身赴任中)、母、姉3人、妹1人―――をノートに書く。

『どうりで、女の人の扱いに慣れてると思った』

なんでも楽しそうに笑うから、少し意地悪をしてやりたくなる。

やきもちとか、妬いてくれたら、嬉しいのに。









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