【短編】鐘の音が聞こえる
やっと重い腰を上げたその時…



「お姉ちゃん、ひとりなの?」



私に、声をかけたのは幼い男の子だった。



見た所、10歳くらい…?



「えぇ、まぁ…」



私は戸惑いを隠せず、曖昧に答えてしまった。



「さっびしーの!」



その男の子は私に指を差して大声で笑った。



「な…!」



なんなの、この子!



少しムカッとした私は、その男のを睨みながら、「なに、キミ、迷子? お母さんは?」と言った。



「あ、子ども相手に本気で怒ってる。大人げねぇ〜」



私の言うことを無視して、目の前の男の子はケラケラと笑った。



フツーに、腹立つんですけど…



私は彼を横目でじっと見つめた。



…どこかで会ったことあるような、そんな気がしたのだ。



「ねぇ。名前は?」



「ん〜、どうしようかな。…教えて欲しい?」


意地悪そうな笑顔を浮かべて、彼は言った。



「べ、別に無理に聞こうなんて思ってないわよ。てか、子どもが外に出てる時間じゃないでしょ? もう、夜よ? 早く帰りなさいよ。」



私は手で彼を追い払った。




「俺だって待ち合わせしてるんだもん。」



彼はそう言って「俺はケン。」と名乗った。



「ケンくん…ね。」



「お姉ちゃんは?」



「わ、私? 私は奈緒…」



「奈緒、ね。」




ケンと名乗るその男の子は、ニカっと白い歯を見せて笑った。







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