【短編】鐘の音が聞こえる
「奈緒はここで何してるの?」



呼び捨てかい…



「ねぇ。何してんの?」



ケンは私のコートの裾を引っ張りながらそう言った。



「私は… 何してるんだろ…」



すとんと、またベンチに腰を下ろした。




「なんだよ、それ。なんで分かんないの? てっきり彼氏と待ち合わせかと思ったけど」



ませガキぃぃぃぃ!!



「あんたこそ、誰待ってるわけ? こんな遅くまで…」



私は冷静を装ってケンに尋ねた。



「俺だって、彼女待ってるんだよ。」



「彼女ぉ? 生意気ぃぃ!!」



私はケンのこめかみを両手でぐりぐりする。



「痛ぇ!!」



ケンは顔をしかめた。



「絶対来るって信じてるんだから、ヤメロよぉ」



彼は真剣な顔になってそう言った。



「…何時から待ってるの」



「5時」



5時ぃ?!



私はふと、横に座っている少年を見た。



駅の改札を眺めているケンの横顔は、どことなく寂しさが漂っていた。



「…一緒だ」



「ねぇ、奈緒の好きな人は来るの?」



え…?



一瞬、ドキッとしたが、私はそれを飲み込んだ。



「…さぁ。」



小さく呟き、私は澄み切った夜空を見上げた。



…私は誰か待ってるの?



ケンの言葉に、そんな疑問が頭をよぎる。



「…星、綺麗だね。ケン…」



「うん…」



白い息を吐きながら、私たちは夜空を見上げた。








< 4 / 25 >

この作品をシェア

pagetop