いちばんの星
第一章 最低な国王様
入城
――――――
「え、私が…ですか?」
いつものように街の酒場で働いていた女性ミュリエルに、城からの使いと名乗る男が話し掛けてきた。
「はい。あなたを城の使用人としてお雇いしたいとの事です。
明日の朝、再び伺いますのでそれまでに荷物をまとめておいてください」
そう淡々と告げると、城からの使いと名乗る男は「では」と軽く頭を下げ店を後にした。
「すごいじゃないかぁミュリエル!城の使用人になれるんだよっ」
「そうだそうだ。もっと嬉しそうな顔をしたらいい」
酒場の主人夫婦は、突然のミュリエルへの誘いに興奮覚めやらぬといった様子ではしゃいでいた。
ここサヴィアーノでは城の使用人になるという事はとても名誉のある事なのだ。
使用人に選ばれるのは街でも評判の美女で、城からの使いが来ない限りけしてなる事ができない。
つまり、使用人に選ばれるという事はサヴィアーノの国に自分は美しいと認められたも同然であるという事だ。
「いやあ、今日はなんてめでたい日だ。うちの酒場から使用人がでるなんて」
酒場の主人はもう嬉しくてしょうがないといった様子で来ていた客たちと話をしている。
女主人はミュリエルに明日のために今日は仕事を切り上げて早めに休むよう言うと、ミュリエルはペコリと頭を下げて「お世話になりました」と一言だけ言って酒場を後にした。
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