いちばんの星
外へでると、冷たい風がミュリエルの頬をなでる。
ミュリエルはすぐ酒場の隣の宿に部屋を借り住んでいた。
部屋へ入るとそのままバタリと倒れるようにベッドに体を沈める。
決して寝心地がいいベッドではないが、長い間使っている感触に自然と体が休まる。
――私が…使用人…
嫌なわけではない。しかし今の酒場での仕事を気に入っていたミュリエルは寂しさを感じていた。
ミュリエルに親はいない。
幼い頃に、暴力的だった父に耐えかねて母が家を出た。
残されたミュリエルも父親の暴力を受け、挙げ句の果てに売られた。
そこから逃げ出してひとり彷徨っていたミュリエルを助けてくれたのが今の酒場夫婦だ。
初めは父親からの暴力が原因で人と触れ合う事ができず内気だったミュリエルも、今では酒場の看板だ。
ただ男への恐怖は消えず、たくさんの告白を断ってきた。
ミュリエルは噂で知っていたのだ。
――サヴィアーノの国王が、とても好色であるという事を。
「嫌…だな」
そうポツリと呟くと、ミュリエルは静かに目を閉じたのだった。