いちばんの星
ミュリエルの心臓はドキドキと音を立てて脈打っていた。
ヴェルヌの名前は知っていた。
自分の国の国王の名前。知らないわけがなかったが、ミュリエルは一度もヴェルヌの事を名前で呼んだことはない。
いち使用人の自分が国王の名前を呼ぶなど、そんな大それた事はできなかった。
そういえば…リヴィアさんは国王様の事を名前で呼んでいたっけ…
ミュリエルの胸がチクリと痛んだ。
「今日は…ドキドキしたり、そうじゃなかったり…私どうしたのかしら…」
そうボソリと呟いたミュリエルの隣に、突然ヴェルヌが腰を下ろした。
「注いでくれ」
そう言って差し出されたグラスにいつも通りミュリエルがワインを注ぐと、
「おまえも飲むか?」
とミュリエルの口元にグラスを近づけた。
遠慮がちに頷くとそれをコクリと飲んだミュリエル。
目の前でいつも通り口元の端をつり上げて笑うヴェルヌ。
いつも通りのあなたの言葉も、いつも通りのあなたの笑顔も、
――愛しい…
このふたりだけの時間が…止まってしまえばいいのに…
そう…ミュリエルは思ったのだった。