いちばんの星
気になる気持ち
この日の夜もいつものようにスティークはミュリエルの元へやってきた。
「やぁ。こんばんは」
ニッコリと微笑むスティークにミュリエルも優しい笑顔を向けた。
ふとミュリエルの手の痣がスティークの目にとまった。
「それは?」
スティークの視線に気づきミュリエルは慌てて手の痣を隠した。
「これは…昼間ぶつけたんです…」
俯いてそう言うミュリエルに、それ以上スティークは何も言わなかった。
何度かミュリエルの元へと通ううちに、なんとなくだが、ミュリエルのおかれている状況に気づいていた。
しかし、これはあくまでも使用人の、女性同士の問題なのだ。
自分が立ち入ってはさらに状況を悪化させるだけかもしれない…そう考え、かわいそうだが今まで特に触れることはなかった。
「スティーク様…」
ふいにミュリエルが口を開いた。
「私…親に捨てられたんです。だからこれくらいの事、我慢できるって思ってました…」
ミュリエルの突然の話に、スティークは何も言うことができなかった。
「でも…ラナやスティーク様がいて本当によかった。ふたりがいるから、私がんばっていける気がするんです。
ふたりに出会えて本当によかった…」
そう言って顔を上げたミュリエルの瞳には涙が浮かんでいた。
「…ッ…」
思わずスティークはミュリエルを抱きしめていた。
ミュリエルは驚いたが素直にスティークの腕の中にじっと収まっていた。
――温かい。
すっと瞼を閉じてしまいそうになったとき、ミュリエルを抱きしめるスティークの腕が緩みミュリエルがはっと顔をあげると優しいスティークの笑顔がそこにあった。