憧れの腕の中
「久しぶり、」

前にも1、2回電話はあったものの、たわいもない会話でほんの2、3分で終わってしまった

だから今回もそんなパターンだと思ったら彰仁がいつもの甘く掠れた声よりワントーン下がった声で呟いた

「少し・・・良い?」

まるで小さい子が母親におねだりするかのように上を見上げながらの一言だった

彰仁の在学中、一度だけ彼が目に涙を浮かべて居るのを見たことがある

その時の彼の姿が一瞬脳裏を物凄い速さで過ぎって行った
その時は確か彼が彼女と喧嘩した時だったと思う

『何かあったの』

彼はその問いで俺が心配してる事に気付いたのか急に
「いゃ、バイトが休みで・・・暇だったから・・・」

「ぃ、忙しいなら今度で良いよ」

と、少し焦りながらもいつもの声で答えた

そういうゴマカシが下手な所は高三になっても変声しきってない声同様、ちっとも変わってない

『そうか、何とも無いなら良かったよ』

俺は声を撫で下ろしながら答えた

「・・・ぁ」

彼は小さな声で、でもハッキリと呟いた

「会いたい・・・」
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