奉公〜咆哮1番外編〜
 俺は『(仮称)通じる君』のスイッチを入れた。

  ブィィィン

 低いモーター音が鳴る。

「ちょっと失礼します」

 本体からリモコン状の物を取り出して里美に渡した。

「ここのボタンを押してひと言喋ってくれ」

「え? あ、はい。こんにちは」

 里美の位置に有った白いドットが緑色に変わった。

「この翻訳機はオートマチックポジショニングシステムと、声紋に依るセレクトランゲジ&パーソンを採用しています。
 赤外線レーダーでその場に居る人と使っている言語を認識し、特殊な音響技術でそれぞれに翻訳した言葉を聞かせます」

 『(仮称)通じる君』の起動を行いながら、玉ねぎ一号に説明をする。

お解りだとは思うが、特殊な音響技術というのは蠢声操躯法の【闘】(トウ・伝達)からフィードバックしたものだ。

「みなさんもこれに向けて、一言ずつお願いします」

 モニターに映し出された白いドットが、ラマネリ語を感知すると赤に、日本語は緑に変わる。

「あ、あ、聞こえるか? 皆の者。余はラマネリー・ド・ロタリパ三世である」

「おおっ!」

 日本側から歓声が上がった。まるでロタリパ王子が普通に日本語で話しているかのような感覚で言葉が聞こえてくる。

「王子、日本へようこそおいで下さいました」

「Oh!」

 俺が一言発すると、ラマネリ側から歓声が上がる。俺達と同じ印象をうけたのだろう。

「大変便利な機械を有り難う。またこの度は余の漫遊に付き合って貰うが、宜しく頼むぞ?
 それにしても……坂本さんはいい男だな」

 王子が俺に色目を使っているのが解る。里美のオーラが赤く燃え上がったのも……。

「それは光栄です。しかし今回、直接お守りするのはこちらの2人になります」

 俺は余り王子の方を見ないでいいように、深々とお辞儀をしながら言った。

「栗原伸浩です」

「山崎里美ですっ!」

 2人も同じように頭を下げる。


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