奉公〜咆哮1番外編〜
「そう言えば王子。1人お付きの方が見当たりませんが……」

 空港で一緒だった美少年が居ない。まさか道に迷ったのだろうか。

「なんだ、坂本さんか? 聞こえなかったぞ?」

 栗原が『(仮称)通じる君』を引いて回っているので、俺の声がせせこましい店の奥迄届かなかったのだろう。

俺は少し大きな声で言った。

「お付きの方が一人足りないようですがぁっ?」

  バキバキバキッ がらがらゴトン パリンッ!

「あああっ! フィギュアがっ! ジオラマがぁあっ!」

 ……やってしまった。俺の声がデリケートなバランスを保って展示されていた商品を薙ぎ倒した。店主が真っ青な顔をして、おろおろ走り回っている。

「悪い、ご主人……請求書は日本政府に回しといてくれ」

 王子の買い物もそこそこに、俺達はその場を逃げるようにして立ち去った。


───────


「大声を立てただけで倒れてしまうような、ヤワな展示の仕方じゃイカンよ。な、坂本さん」

 王子は俺の声が持つ威力を知らない。

俺達の話す声は音圧そのものが高いので、本当なら普段から重々気を付けていないといけないのだ。

「いやお恥ずかしい。お買い物の途中だったのに、とんだ邪魔をしてしまって申し訳ありません」

 階段を昇りながら話をしていると、栗原がぼそっと漏らした。

「でも坂本さん。多分日本政府に個人の店主が請求した所で、支払いはされないんじゃないすか?
 まず悪い冗談だと思って取り上げられないと思うなぁ」

 それもそうだ。彼には悪い事をした。無責任だが王子の警護を怠る訳にはいかない。後で辻褄が合うように、なんとか根岸に取り計らって貰おう。


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