奉公〜咆哮1番外編〜
 その後も各階を回り、珍しい店を冷やかして歩いた。

王子は次々とレアなアイテムを買い漁り、お供の玉ねぎ達は駅で待機しているリムジン迄、何度も往復させられて「ヒーヒー」言っている。

そんな隙を突いて俺は、まだ仏頂面をしながら無言でついてくる里美の耳元で囁く。

「面白そうな所だから、今度2人きりで来ような」

 それを聞くと彼女は、ようやく表情を和らげた。里美の操縦法は、コツを掴めば案外解り易い。今迄女性との付き合いに苦労して来たのが嘘のようだ。

しかしそもそもの原因は、女性に対して真剣に向き合って来なかった俺に有るのは否めない。

「よし、目的は果たせたな。一号、次に参るぞ?」

 ここでの買い物は一段落付いたようで、従者の玉ねぎは言った。

「王子は夏葉原の電気街にも行ってみたいと仰っています。宜しいでしょうか」

 やはりそう来るか。だが幸い今日は平日だ。警護の支障となる人混みも休日のそれに比べれば少ない。

「アタシ、メイド服着てみたいなぁ。淳に沢山ご奉仕するの」

「言っちゃナンなんすが里美さん。あのファッションをするには少し、その……」

 栗原が口ごもる。

「なによ栗原、あたしじゃ些かトウが立ってるって、そう言いたい訳?」

 ゴゥ! と音を立てて里美見のオーラがその勢いを増した(ように感じた)

栗原はたじろいで2、3歩後退りする。

「そそそそんな滅相も有りやせん!」

 何で町人口調なんだ、お前は!

「まぁまぁ、里美も栗原も後は夏葉原に着いてからにしてくれ!」


∴◇∴◇∴◇∴


 夏葉原駅で王子を待つ間、暇潰しに名物のラーメン缶を食べてみる。

「俺はてっきり『おでん缶』が夏葉原の名物だと思ってたんだが……」

「古いっスよ、坂本さん。今鬼熱(オニアツ)いのはコレっス」

 どれどれ、ズズーッ。

栗原が持って来たラーメン缶を啜ってみた。

「ナンじゃこりゃ! ラーメンじゃなくて、糸こんにゃくじゃないか!」

「やだなぁ、坂本さん。普通の麺を入れたらのびちゃうからじゃないっスか!」

 なるほど、そうか。しかし俺的には【無し】だな。


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