奉公〜咆哮1番外編〜
  ヴィーィン ヴィーィン ヴィーィン

 里美からのメールで目が覚めた。

subject.無題

text.グッスリとお休みのようなので、アタシは失礼させて頂きます。

是非また誘って下さいネ?




 マズイ、相当怒ってる!

でも今更取り返す事は出来ないし、大使館に行く時間迄にはまだまだ余裕が有る。

「こうなりゃ開き直って、顔でも洗ってシャキッとしよう」

洗面所で鏡に向かってみると……まんまとヤラレていた。ほっぺにナルトが渦を巻いているし、目蓋に瞳が描いて有る。

  ヴィーィン ヴィーィン

「里美か? ……畜生、アイツっ!」

 そのメールには、俺が寝てる間に撮られた間抜けな画像が添付されていた。


∴◇∴◇∴◇∴


 俺はタクシーでラマネリ大使館へ乗り付け、門をくぐって丹精込めて作り込まれた庭園を横切っている。

「どうでもいいけどここ、無駄に広いよなぁ。
 トイレでゆっくりし過ぎたな。仕方ない、ちょっと使うか」

 時計を見やるともう1時を既に回っていた。俺は【者】(シャ・3倍力)を使って瞬く間に玄関へと到着した。

呼吸を整え、スーツの各部を点検する。(俺は過去に全開で【者】を使い、ビリビリのスーツ姿で出社した事が有る。※ 二章第4項参照)

「大丈夫だ、上手く制御出来た。ズボンも破けて無い……ん、うわっ!」

 何気なく振り返った俺の視界に入って来たのは、もうもうと立ち上ぼる埃と、等間隔に玉砂利が蹴散らされた見るも無残な散策路だった。

「これは困った、しかし時間も無いし……さ、坂本です」

 灯籠に仕込まれた隠しカメラに向かって呼び掛けると、重たそうな分厚い玄関の引き戸がひとりでにゴロゴロと開かれる。

「昨日来た時は何とも思わなかったけど……これはどういう仕掛けなんだろう」

 独り言としてはかなり大きな声で呟き、玄関から土間で繋がっている「奥の間」に小走りしながら辿り着いた。

「すいません、遅くなりました」

 栗原は勿論、本来なら俺と一緒に居る筈の里美もちゃっかりそこでスマしていた。


< 25 / 36 >

この作品をシェア

pagetop