奉公〜咆哮1番外編〜
「ご苦労様です。昨日はお世話様でした。
 王子は今、昼食前の湯あみをされております。
 その後から昼食をお召し上がりになると思いますので、暫らくはゆっくりなさっていて下さい。
 では」

「あの、すいません。ひとついいですか?」

 玉ねぎ一号がそそくさと退席しようとしていたので、俺は慌てて聞いた。

「あ、はい。そうでした。玄関の引き戸はリニアトラッキングになってます」

「はい?」

「リニアモーターカーと同じ原理ですよ」

 ああ、朝の独り言を聞かれていたんだ。しかし油断ならんな、筒抜けだ。

「有り難うございます。いやそれはそれとして。
 待機時間にお庭を見て回りたいんですが、宜しいでしょうか」

 どうぞどうぞと快諾を得て、ホッと胸を撫で下ろす。里美と栗原に耳打ちして、足跡消しを一緒に手伝ってくれるよう頼んだ。

「やっちまいましたね、でも手伝いますよ! 勿論っス」

「アタシはどうしようかなぁ……淳、約束守らないんだもん」

「……坂本さん、里美さんにもまた何かやっちまったんすか?」

 栗原に囁かれ、俺は作り笑顔を無理やり返した。

「里美ぃ。頼むよぉ、二人だけじゃ間に合わないからさぁ」

「倍返しねっ!」

 おおコワ。しかし望む所だ。本気になった俺をナメるなよ?

いや、舐められるのは構わない。うん、寧ろ舐めて欲しい←何を言ってる、エロおやじ!


∴◇∴◇∴◇∴


 やっと足跡をならし終わった所で、素早く俺達に近付いて来る影が有った。

「! 里美、栗原! 気を付けろ!」

 俺達は身構え、すぐさま臨戦態勢を取る。

  ザザッ!

 上がった土煙の中から、その影は次第に正体を現した。

「敵じゃないよ、味方ダね」

 灰色の忍び装束を着た玉ねぎ頭がそこに立っている。

「私はここの衛兵ヨ。忍者玉ねぎ、略して『忍たま』だネ!」

 そうだ。ここには門番も居ないし警官の待機所も見当たらない。大使館なのにこんなセキュリティでいいのかとは思っていた。日本贔屓な国王は、忍びを衛兵として配していたのだ。


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