奉公〜咆哮1番外編〜
『坂本さん、お仕事です』

 いつものように根岸から電話が入った。

『今回の案件は普段と少し違い、事件ではないのです。政府がお招きする要人の警護をして戴きたいのですよ』

「え? はぁ……。でも、そういう事でしたらSP等のエキスパートを使った方がいいのでは? 我々は所詮素人に過ぎませんよ?」

 現場で犯人に対するのなら、ある程度のパターンが出来上がっているからまだ勝算も有る。

しかしVIPの身辺警護など、経験がまるで無い俺達なのに……いきなりそんな話をされても困るというものだ。

『仰る事も解ります。確かにそれもそうなのですが……。
 何しろかの方はお忍びで観光したいと仰ってらっしゃいまして、物々しい警備は必要無いと申されているのですよ』

 甚だ迷惑な話だ。どこの国のVIPがそんな事をヌかしてやがるんだ!

根岸は俺の聞きたい事を先回りして言った。

『その御人はラマネリ王国のロタリパ王子なのですが、この方が些か難物でして……前回ご来訪戴いた折には20名のSPをお付けしてお守りしたのです。
 そうしたら「SPが邪魔で、まともに観光出来なかった」とブログで散々愚痴られてしまいました。
 王子は日本政府に対して相当おかんむりのようなのです』

「ははっ! 王子だから冠はかぶってますねぇ」

『ええ、しかし、そう冗談も言っていられないのですよ……』

 ラマネリ王国は世界でも有数のダイヤモンド原石の産出国で、小国ながら大層豊富な財源に恵まれている。皇室や経済界とも大変深い繋がりと影響力を持っており、下手をしたら深刻な国際問題にもなり兼ねない。

……という事で再度招待したらしいのだ。

『そういう訳で今回は、前回と同じ過ちを犯す訳にも行かず、かと言って警護の質を落とす訳にも行かない。
 そこで最終手段として、坂本さんのチームにお願いしている次第です』

 なるほど。事情は飲み込めた。だが問題はその方法だ。







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