奉公〜咆哮1番外編〜
  シュパッ

「おっ……おわっ!」

 鋭利な斜めの切り口に沿って、切られた木の上部が滑り、真っ直ぐドスンと地面に落ちて倒れた。

 細めの街路樹だが、真ん中辺りから真っ二つにされたその光景は、王子にかなりのインパクトを与えたようだ。

「わわわわ、ななななんだあれは!」

 俺は恐れおののいている王子にこう付け加えた。

「彼女は何一つ証拠を残さずに対象の命を奪うことが出来るのです」

「ひぇっ、余もあんな風にこ、殺されるのかっ?」

「まさか! 王子は大切なお客様です。
 あれは王子をお護りする為の能力ですよ」

 俺が大袈裟に里美を指し示すと、にこやかに微笑みながら頭を下げると同時に【陣弱】を放った。

  シュパシュパッ

 倒れた木に付いていた葉っぱが2枚、千切れ飛ぶ。

「ひぇええっ、もう牛なんて言わないっ、許してくれっ!」

「大丈夫ですよ、王子。安心して我々に任せて頂こうと思ってお見せしたんですから」

 しかし王子は恐怖の余りに里美を見ようともしなくなった。

少し薬が効き過ぎたか。

「ささ、皆さんが待ってますから行きましょう」

 すっかり意気消沈している王子を携えるようにして皆と合流する。釘を刺して元気を無くさせてしまった事実をうやむやにする為にも、俺は積極的にその場を盛り上げる。

「いやね? そういう場所は初めてなんですよ。早く行きましょう」

「なんだ坂本さん。結構乗り気じゃないか」

 まさか! 気分なんか乗る訳がない。俺は全く男色の気が無いし、寧ろ考えるのも嫌な方だ。

だが今回の歴訪は接待が主たる目的で、楽しませるのも俺達の仕事。王子の元気が無くてはそれもままならないから、仕方なく盛り上がったフリをしているんじゃないか!

まぁ、あれを見せつけたのだから王子も大分扱い易くはなっただろうし、後は気分良く帰って貰うだけだ。

様々な思惑を孕ませながら、俺達は『男の園』へと向かった。


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