奉公〜咆哮1番外編〜
 ここは下部喜町三丁目に建つ、とある煤けた雑居ビル。

階段を三階迄上がるとそこにそれは有った。『ムーランルージュ』何処にでも有る平凡な名前だ。ドアをくぐると極ありふれた店内の、ボックス席に通された。

 紅一点の里美はオカマ達から散々いじくられ、「気分悪いから帰る」と言って出て行ってしまった。多分彼ら(彼女ら?)は、女性フェロモンがムンムンと立ちのぼっている里美にライバル心を剥き出しにしてしまったのだろう。

俺は里美の後を追い、居辛いだろうし今日は上がっていいと伝えた。

「あのクソガキに一矢報いてやったからよしとするわよ。じゃ、お先にね」

 謝る俺に軽くキスをして階段を降りていく。どうやら余り怒ってはいないみたいだ。

俺は一安心して店内に戻った。

「牛、いや山崎さんは帰ったのか?」

 王子はさっきの一件が余程堪えているらしい、まだ里美を恐がっている。

「ええ、王子もその方が羽根を伸ばして頂けるのではないかと思いましたので、帰らせました」

「さすがは坂本さんだ。気遣いを有り難う。
 よし、こうなったら他のみんなも呼ぼう!」

 王子はやっと明るさを取り戻しつつあった。

「……という訳なので、狙撃班も監視班も関口警部もお願いしますよ」

 王子のたっての希望という事で、待機していた彼らを『ムーランルージュ』へ呼び寄せる。勿論、勤務中なのでアルコール無しの催しではあるが、途端に賑やかになった店内に王子も凄く楽しそうだ。

「今日は余の奢りだ、皆さん遠慮無くやってくれ!」

 時間が早いのでパラパラとしか居なかった常連達からも、歓迎の拍手が上がった。

「この度はどうも有り難うございます。ママのフグ田シジミです」

 王子に礼を言うとママはステージに上がった。

「皆さん警察関係の方っぽいけど、まだこんなに明るい内からオカマを見に来て下さるなんて感激だわ? 
 それに今日はあちらの素敵なお兄さまの奢りだから、遠慮しながらガンガンやっちゃって下さいネぇ!」

 こうして見ると、ママは女にすればかなりの上玉だ。

声は太いが接客の為にそうしている感もある。


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