奉公〜咆哮1番外編〜
「言っとくが、俺は観光に来たんじゃない。日本のお宝を頂戴しに来たんだ」

 眉間に深い皺を寄せてヌシャーラは言う。随分と物騒な話である。

「まぁまぁまぁ、今回は国賓として招かれている訳だし、余の顔を立てて少しはおとなしくしていてくれんか?」

 そしてロタリパ王子はヌシャーラと呼ばれた美少年にコソコソと耳打ちをした。何か弱みを握られでもしているのか、表情を変えたヌシャーラはしどろもどろになってこう返す。

「し、仕方ない。しかし今回だけだぞ? 今度来る時にはそうは行かないからな!」

 チャーター機で派手派手しく登場しておいて「お忍びだ」なんてぬかしてるんだから、常識が疑われる。

そう思いながらも俺はタラップに駆け寄り、うやうやしく頭を下げた。すると従者の一人が近寄ってきて挨拶をする。

「初めまして、ロタリパ王子の従者、玉ねぎ一号です。
 私は日本語に長けていますので、今回通訳をさせて戴きます」

 玉ねぎ頭の中でも一番まともそうな従者が深々と腰を折る。

「こちらこそ初めまして。王子様の護衛の指揮を取らせて戴く坂本です、宜しくお願いします。
 こちらからの連絡が不行き届きで申し訳ないのですが、今回我が国で開発した自動同時通訳機を持って参りましたので、通訳するお手数は要りません」

 俺の合図と共に栗原が『(仮称)通じる君』を引っ張って来た。玉ねぎ一号は言う。

「これの電源は何ですか? 放射能漏れとかは無いでしょうね!」

 幾ら日本が優秀でも、こんな小さい原子炉は作れない。

「大丈夫です。日本の放射能は安全です! ……なんて冗談ですが。
 この布になっている部分の中身が、リチウムイオンバッテリーです。原子力は使っておりませんのでご心配には及びませんよ」


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