小さなチワワの大きな秘密
私が静かに教室から出た時、由優がトイレから出てきた。
「…」
目が合う。
でも、直ぐに空気みたいに目をそらされた。
(隠れオオカミ)
由優が歩き出す。
隠れオオカミ。
それはあながち間違った話ではないんだろう。
誰も知らない、
彼の秘密。
「隠さなくていいじゃん!」
私は由優の小さい背中に投げ掛けた。
由優の足が止まる。
「自分に嘘吐いちゃ駄目だと思うよ!」
由優が振り向く。
“迷惑”そうに。
「君はお人好し?…それとも偽善者?」
「…選んだ方がいいの?」
私が真剣にそう言うと、由優は下を向いて悲しそうに笑った。
…ていうか笑った…のかはちょっと良く判らないけれど。
彼の肩が震えていた。
「何で俺なんかに構うの?…浮くようなこと止めたら?」
(喋った!)
「…何」
「優しいんだね」
由優の顔が上がる。
は? って感じに。
「私のこと、気に掛けてくれてるよね?優しいなって」
「…ありがとう」
にこっ、と花が咲くように笑って、由優は私の肩を押してすれちがった。