小さなチワワの大きな秘密
カツ、カツ…。
嫌な音が廊下の向こうで響いている。
近付く。
ガララ…
扉が開く音?
まだ知らない。
「何で否定しなかったんだ?」
その声に、由優は振り向く。
声の主、ただのしがない数学教師…日向が扉の枠に手を掛けて此方を微妙に笑いながら見ている。
由優はふと顔をそらしながらまた窓の外へ目を向け直した。
夕焼けだった。
「もう空が秋だな」
思っていたことを言われて、由優は開きかけた口を結ぶ。
「──で?」
相手はあくまでも話をそらさない気だ。
その前に、少しの逃げ道に由優は頼ってみることにした。
「…何で先生が知ってるんだよ」
「何でもお見通しなんだよ、俺には」
「──」
「…冗談です。転校生がデカい声で叫んでたぞ。お前のこと」
「あっそ」
日向は近くの机に腰を下ろす。
由優はその様子をさして面白いとは思わずに見つめていた。
「お前は盗ったりしてないんだろ?」
目を上げると、笑った日向が其処に居た。
「分からないよ」
由優が首を傾げると、日向はまた笑う。
「ドライな奴だな。自分が泥棒か神様かの境目なのに」
「神様?」