小さなチワワの大きな秘密
可愛くない
「一人?」
「…!」
屋上。
由優が足を踏み入れると、其処には先客が居た。
──鉢月瑞穂が。
彼女はフェンスにしがみついて肩を震わせていたが、由優の存在を知って振り向いたのは、濡れた顔。
怯えた顔。
「死ねば?」
辛辣な言葉を笑顔で投げ掛けると、驚きバランスを崩した瑞穂はフェンスに背中を叩き付け、ガシャン、と大きな音を立てた。
「何も知ら…ない癖…に」
「知りたくないことは知らなくてもいいでしょ?何で俺が」
一旦其処で言葉を切る。
「君なんかを知らなきゃいけないの?」
瑞穂の目から落ちる一粒の涙。
「…酷いよね、椎名君は」
瑞穂は口元に笑みを浮かべて由優を見た。
「それくらいしないと生きていけないよ、この世界」
「どうすれば死ねると思う…?」
「殺そうか?」
「…飛び降りる為に此処に来たのに」
「じゃあ…背中を押せばいい?」
瑞穂が顔を上げる。
「でも椎名君には借りがあるから…」
「あぁ…良いよ。気にしなくて。どうせ死ねないでしょ?怖くて」
瑞穂は涙の痕を触って、微笑みながら頷いた。