【完結】─続─泣き虫姫のご主人様






「はいはい……わかったから……押さないで」




 やばいから。


 そう言って、弥生はわざとらしく笑って見せる。







 バカ。


 そんな言葉を期待したのだが、なかなかその言葉はやってこない。





 気分を悪くしたのだろうか。



 暫く二人はそのまま夜の道を歩いた。






 一歩、二歩、三歩。

 コツコツと二人の靴の音だけが夜道に響く。









「……り…と……」




「え?」




 先に沈黙を破ったのは、雛子の方だった。







 しかしうまく言葉が聞き取れない。



 再度聞き返すと、今度は真っ赤な顔をした雛子に怒鳴られてしまった。









「ありがとうって言ったの! ちゃんと聞きなさいよ」





 その彼女の表情がたまらなく可愛くて、こっちまで赤面してしまう。





「あ、ありがとう……?」



 雛子にそんな言葉をかけられたのは初めてだった。



 今までは、“嫌い”しか言われたことがなかったから。






.
< 225 / 256 >

この作品をシェア

pagetop