【短】雨の日の出来事



バスの扉が開く。


私たちは、動かない。





「お客さん? 乗らないのー?」



ほんの数人しか乗せていないバスの運転手さんが、私たちに声をかける。





「あー、いいです」



答えたのは涼くんだった。




「え!?ちょっと待っ……」


「そうかい?じゃあ出発するよー」




私の声は扉の閉まる音に消え、バスは見えなくなっていった。





「ちょっと涼くん! また1時間待たなきゃじゃない!」



唖然とバスを少し見つめたあと、ハッと涼くんに詰め寄る。



せっかくずっと待ってたのに!




「……別に、いいじゃん」


ボソッと呟いた涼くんに、私らしくもなく怒りが少し込み上げる。


でも……





「俺が、莉子とまだ一緒にいたかったから」




「……え」




……涼くんのそんな言葉で、そのイライラがなくなった私っておかしいかな?



その言葉で、ドキッとした私は、おかしいのかな?




「また話してればすぐ来るよ」




あ、またその笑顔……




雨の日なのに、お日様を見ているような気分。


心が、暖かくなる。





「じゃあバス来るまで、また私の話し相手になってくれる?」


「当たり前。 そのためにバス行かせたんじゃん」


「え?………え!?」


「ははっ! なんでもねーよ」


「なによそれ!」






―――これは、ある大嫌いな雨の日に、突然起こった出来事。








[END]



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