月と太陽の事件簿9/すれちがいの愛情
「ねぇ、気になったんだけど…」

里見さんはテーブルから少し身を乗り出した。

「そのリカちゃんの父親…つまり淑恵さんの旦那さんは何をしてるの?」

淑恵が虐待をしているのなら旦那はそれを知っているはずだ。

でもなぜ旦那が話に出てこない?

里見さんはそう言いたいのだろう。

でもそれは仕方ないことだった。

「淑恵の夫は…リカちゃんの父親はもう死んでるんです」

「死んでる?」

おうむ返しに聞く里見さんにうなずき、あたしは手帳を取り出した。

「昨日はじめて知ったんですけどね…」

淑恵は地元の商業高校を出た後、都内の運送会社に事務員として就職。

3年後、職場で出会った5つ上の運転手と結婚しリカちゃんを生んだ。

幸せな家庭を築いていた淑恵だが、昨年の不況で会社が傾き、夫がリストラにあった。

その頃から夫は酒におぼれるようになった。

昼間から仕事もせず酒を飲む夫。

淑恵がたしなめると暴力をふるうようになった。

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