月と太陽の事件簿9/すれちがいの愛情
「警察沙汰になったのは1度や2度じゃなかったみたいです」

「なぁに、児童虐待かと思ったら今度はDV?」

里見さんはあきれ返ったように言った。

嫌な言葉が市民権を持ったものだと、つくづく思う。

「夫の暴力に耐えかねた淑恵は、リカちゃんを連れて友人の家に逃げたそうです」

しかし夫は追ってきた。

自ら運転する車で淑恵の友人宅に乗り込もうとしたらしい。

酒びたりの、アル中の身体で。

「夫の運転する車はスピードの出し過ぎでガードレールに激突。即死だったそうです」

「飲酒運転であの世行きとはね。バカな男がいたもんだわ」

バッサリな一言だった。

眼鏡美人の知的な顔で言うとなおさらだった。

「で、その後で母娘ふたりで今のアパートに引っ越したわけね」

あたしはうなずいた。

「大変ね。淑恵さん実家に身を寄せようとはしなかったの?」

「淑恵は相次いで身内を亡くしているんです」

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