月と太陽の事件簿9/すれちがいの愛情
「すいません、怪しい者じゃないんです!」

あたしは説得力のないセリフを口にした。

急いでバックから警察手帳を取り出し、お婆さんに見せる。

「あたしたちは警察の者です!これは捜査ですから安心して下さい!」

これまた説得力のないセリフだったが、お婆さんは信じてくれたようだ。

2、3度うなずくと笑顔でお茶をすすった。

一方、達郎はというと、塀の上で中腰になったまま、あるものを見つめていた。

その視線の先には、水の入った数本のペットボトルがあった。

野良猫よけのために塀の上に置いたのだろう。

「すいません、ちょっといいですか」

達郎は塀の上からお婆さんに声をかけた。

「このペットボトルを置いたのは貴方ですか?」

お婆さんはうなずいた。

「それって、今月に入ってからですか?」

再びうなずくお婆さん。

達郎はその答に唇を尖らせた。

別にすねているわけではない。

考え事をはじめた時の、達郎の癖だ。

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