月と太陽の事件簿9/すれちがいの愛情
達郎は空を見上げた。

今は9月。

空からは未だ夏の名残りある陽射しが降り注いでいる。

達郎は空からペットボトルに視線を移し、さらに木々の向こう側に目をやった。

そこには淑恵とリカちゃんの住む部屋があった。

空→ペットボトル→部屋→また空…といった順序で、何度も何度も視線を移す達郎。

その唇は尖ったままだった。

「ねぇ、どうしたの達郎?」

しびれを切らしたあたしは達郎に声をかけた。

「なんでもない」

そう答えた達郎だったが言葉通りに受け取って、何でもなかったことは未だかつてない。

しかし達郎は確信に変わるまでは推理を絶対に口外しないという、外国の作家探偵と同じポリシーの持ち主なのだ。

「なんでもないなら塀から降りなさい」

あたしはあきらめて目付役モードに戻った。

「その格好だとあんたが野良猫みたいよ」

黒スーツに中腰姿の達郎は、まるで巨大な黒猫のようだった。

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