月と太陽の事件簿9/すれちがいの愛情
お婆さんにもらったかりんとうを食べながら、あたしと達郎は庭を出た。

通りに出て、アパートの玄関側を眺める。

2度目の火災は、この玄関で起きた。

「ほのほーりほ、ひはほひっほれ、ひほけはふふはいんはら」

「かりんとう口に入れたまま喋るんじゃない」

「この通りも、庭と一緒で人気は少ないんだな」

ちゃんと喋れるなら最初からそうしろよ(しかし器用だな)。

「人気ない分、見通しはいいわね」

あたしはあたりをぐるりと見渡した。

アパートの周囲に、通りからの視線を遮るものはない。

もし玄関の新聞紙に火を点けようとしたら、周囲の家からはまる見えだ。

現に向かいの家から、ひとりのご婦人があたしたちを見ていた。

向かいの家は確か、このアパートの大家さんだったはず。

ではこの女性がそうか。

「こんにちは」

あたしは達郎を後ろに従えた形で、女性に声をかけた。

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