月と太陽の事件簿9/すれちがいの愛情
脳裏に「虐待」の2文字が浮かんだからだった。

覚悟はしていたはずだったのに、やはり心のどこかでひいき目があったのだろう。

あたしはほんの少しだけ達郎をここへ連れてきたことを後悔した。

「まさか、あたしのしたことが…」

淑恵は消えそうな声でつぶやいた。

「淑恵…」

「あの子、物が飛んだりお皿が割れたりする度にあたしに言うの…ママ、またお化けが出たって」

淑恵は膝の上で拳を固く握った。

「そのたびに、頭の中に死んだ旦那の顔が浮かぶの…」

あの男なら化けて出かねない。

死んだ旦那は、それほどしつこくて、陰湿で、乱暴だったと語った。

「たとえそれがあの子のイタズラにしたって、なんでそんなことをするのか…」

原因が全くわからない。

それが淑恵を困惑させ、苛立たせた。

さらに火事騒ぎが立て続けに起きた。

しかもいずれも火元は淑恵の出した新聞紙。

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