月と太陽の事件簿9/すれちがいの愛情
ダメな女だ、あたしは。

「達郎…」

つぶやくようにして言うと、達郎は小さくうなずいた。

その瞳には、憂いだけでなく、強い意志を宿した光も浮かんでいた。

達郎は体を反転させると待合室の一角へと向かった。

そこにあったのは自動販売機。

達郎はそこで缶コーヒーを買うと、あたし達の前へ戻ってきた。

達郎には変な癖がある。

推理する時、必ず缶コーヒーを手にするのだ。

なんでも始めて事件を解決した時、たまたま缶コーヒーを手にしていたそうで、それ以来癖になっているらしい。

やがて乾いた音がした。

達郎が缶コーヒーを開けた音だった。

達郎はそのまま一口飲むと、軽く息を吐いた。

「あの火事の犯人は、もう分かっています」

達郎は淑恵に静かにそう告げた。

< 51 / 66 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop