カサブタ。短編集。
『2:うるさい、寒い、近寄んないで』
「ゲッ…」
見上げた空から、
雪が舞い降りてきた。
どうりで寒いわけだ。
「雪だね。」
と、憂は言った。
そんなの見ればわかる。
「せっかくなら明後日に降ってくれたらよかったのに。」
今日は12月22日。
まぁたしかにそうだけど、
寒気がやって来たのが今日だったんだから仕方ない。
「冷えると体によくない。」
憂は言って、
わざわざ隙間を開けて座っていた距離を縮める。
「だったら帰る。」
声に出して言ったら、
憂はフワッて笑った。
会った頃は下手くそだったくせに。
いつの間にやら上手く笑うようになった。
憂の腕が私の肩を引き寄せて、
灰色のコートが私を包んだ。
また白衣着たままだ。
ようするに、
まだ帰れないって事。
「うん。まだ生徒が残ってるから。」
憂は言った。
耳元で喋られるとくすぐったい。
「わかってるよ。離して。」
包み込んでいる憂の腕を軽く押す。
びくともしないのは承知の上だ。
「やだ、捕まえてないと本当に帰っちゃうだろ。」
憂は言った。
耳にチュと水気の多い音が注ぎ込まれる。
背中がゾクリと震えた。
寒いからじゃ、ない。
「馬鹿たれ。生徒がいるなら研究室に戻れ。」
私の声に憂はクスリと笑った。
だから、耳元はやめてったら。
「愛してる。」
今、
そんな事、言う場面?
そう思うのに、
顔が熱くなるのが悔しすぎる。
だから言ってやった。
『2:うるさい、寒い、近寄んないで』
そう言いながら、
その唇にキスを落として。