カサブタ。短編集。
『3:どうせ可愛くない娘です』
桜はもうすっかり葉桜で。
慣れないスーツを着た私は、
慣れないパンプスで靴ずれで。
不機嫌だった。
だから入学式なんて
バックレたほうが正解だった。
「由香。あなたもいらっしゃい。」
母親に手招きされて、
私は笑顔を向けた。
これくらいの笑顔なら、
いくらでも大安売りだ。
父親はあちこちから集まってきたらしい教授連中に囲まれている。
私と母は、
その後ろでにこやかに会釈していればいい。
しかし、気持ち悪い。
少し人が密集しすぎているのだ。
濁った魂の干渉で、
体が悲鳴を上げ始める。
しかも、足が痛い。
いいかげん限界だと思ったところで、
私の体は分厚い壁に取り囲まれた。
いい香りのする、
強烈な魂。
ハッと息を吐き出した。
気持ちの悪さが一気にひいていく。
「これはこれは、野崎教授。」
父親の声に、
呼ばれた野崎教授は深々と頭を下げた。
「お久しぶりです。」
野崎教授はそう言って、
ちらと私を見た。
「うちの娘がお世話になったようで。」
父親はそう言って私を振り返った。
「とても親身に話を聞いて下さったと、クラスメイトも喜んでました。」
私は言って、
ニコリと笑う。
野崎教授の後ろに無表情で立っている憂に、
目線を移して一瞬だけ目を合わせた。
「彼が、期待のホープですか?」
父親が言った。
彼と言われたのが憂だとわかって、
期待のホープという響きに吹き出しかけるのをなんとか堪えた。
そりゃ期待のホープだろう。
何しろ直接心を読んでるんだから。
不自然でなく視線を合わせる事が出来るようになって、
憂に目をやる。
憂は嬉しそうに口元をかすかに緩めた。
「深浦憂です。」
憂は父に視線を移してそう言うと、
会釈した。
そして、
もう一度私に視線を戻すと言った。
「顔色が悪い。具合が悪いですか?」