香る紅
『私、もうこれ以上は、何も望まない。』

『もっといっぱい、望むべきよ!織葉は!』

『だめなの。・・・優しい緋凰に、すごい昔の約束守らせて…。甘えるだけ甘えているんだもの。もう、これ以上は、望んじゃいけないの』

『昔だろうと約束は約束でしょ?』

『約束は約束でも昔だから・・・緋凰が私のこといらないっていうんだったら、私、緋凰のところ出ていく覚悟もしてるんだ』



織葉はいつだって笑っているけど。

でもだからってそれが、幸せかどうかの判断に使えるとは限らない。

涙が出てきた。

どうして私の大切なお友達が、幸せになれないの。

私に幸せを分けてくれた、大切な大切な、お友達。

どうしてどうしてどうして。

そのとき、後ろから抱きすくめられた。

「祈咲。ストップ。それぐらいにしとけ。緋凰に、十分きっついジャブ入ったから。」

いつのまにか普段に戻った実紘に止められた。

怒りのあまり言いたい放題で無視し続けていた緋凰を見ると、今までに見たこともないくらいにうなだれて、情けない感じになっていた。

それはもう、織葉の愛も覚めてどっかにいっちゃうんじゃないかってくらい。

「・・・俺、今から帰る。」

笑える。いい気味。

そんな私の気持ちを代弁するかのように、実紘が、いつもよりずっと面白そうに。

「ばーか、誰が帰すかよ。反省しなきゃいけない人間を甘やかしてくれる人間のところに帰すなんて、するわけねぇだろ。今日一日、しっかり学校にいて、しっかり反省してから、帰って織葉に謝れ。」

・・・そうね。

反省しろ、ばーか。

誰が、織葉を独り占めなんか、させてやるもんか。





< 32 / 55 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop